「OiBokkeShi」の演劇レクリエーション

老いを演じる、老いを想像する
2018年4月21日(土)・22日(日)
13:00~16:00
福井市民福祉会館 4階 ボランティアルームB (フェニックス・プラザ)

俳優で介護福祉士の菅原直樹さんを講師に迎え、「『OiBokkeShi』の演劇レクリエーション 老いを演じる、老いを想像する」を開催。2日間で24名の方に参加いただきました。当日の内容や、参加者の方へのその後のヒアリングをレポートします。

文/荒川裕子(福井芸術・文化フォーラム)


(1)アイスブレイク

「OiBokkeShi」の演劇レクリエーション

●遊びリテーション<将軍ゲーム>
介護現場でよく行われる“遊び”を通じたリハビリ。体の部位に番号をふって、読み上げられた番号の部位を指差すゲーム。段々とルールを増やし、ゲームを難しくしていきます。

菅原さん【菅原さんの解説】
「できる=良い」「できない=悪い」という価値観は、遊びの世界には当てはまりません。できなかったり、失敗したりすることが遊びを盛り上げたりします。

「OiBokkeShi」の演劇レクリエーション

「OiBokkeShi」の演劇レクリエーション

●シアターゲーム<イス取り鬼>
体をつかってのコミュニケーションゲーム。歩き回る鬼をいかに座らせないようにするか、互いが協力しあって成功させるゲーム。

菅原さん客観的に場を見るトレーニングとして、演劇の稽古やワークショップ等でよく行われるゲームです。体をつかって他者と触れ合うことは演劇の原点ですね。


(2)遊びから演技へ

「OiBokkeShi」の演劇レクリエーション

「OiBokkeShi」の演劇レクリエーション
●Yes,andゲーム~介護バージョン~
介護職員役と認知症のお年寄り役に分かれ、介護職員が「食事の時間ですよ」と声をかけても、お年寄り役は文脈のずれた話をします。そのお年寄りの話を肯定(Yes)し、話にのる(and)ゲーム。ボケを受け入れる演技を体験しました。

菅原さんボケを正すのではなく、受け入れるということ。進歩主義の世の中、人は成長することが美徳と考えられていますが、認知症のお年寄りはだんだんといろんなことができなくなってしまいます。何が正しくて何が間違っているか、お年寄りはかつて分かっていた。分っていたことが分らなくなるのが認知症の症状です。老い衰えていくお年寄りを無理して成長させようとするよりも、感情に寄り添って、今、この瞬間を共に楽しむことの方が希望につながるのではないでしょうか。

「OiBokkeShi」の演劇レクリエーション

「OiBokkeShi」の演劇レクリエーション
●BOOKS~認知症のお年寄りを囲んで~
5人1組で雑談をしてもらい、その中の1人が認知症のお年寄り役に。お年寄り役には小説やマンガの本を渡し、周りが雑談をしているときに好きなタイミングで本に書かれているセリフを発してもらいます。文脈のずれた言葉に対して、否定・無視をする場合と肯定する場合の両方を行いました。


(3)ショートストーリーをつくる、発表する

「OiBokkeShi」の演劇レクリエーション
所々セリフが抜けた台本。参加者がアンケートをもとに、これまでの人生で一番自分らしかったとき・楽しかったときのエピソードをプラスして、台本を完成させます。配役を決め、認知症になった「わたし」とその周りの人々が登場する介護現場の1シーンを創作、発表しました。

「OiBokkeShi」の演劇レクリエーション
「OiBokkeShi」の演劇レクリエーション


「老い・ボケ・死」は絶望ではなく“よりよく生きる”ということ。
「老い・ボケ・死」から目を背けるのではなく、受容すること。

俳優で介護福祉士の菅原直樹さんは介護と演劇の相性の良さを実感し、老いと演劇「OiBokkeShi」を立ち上げ、全国各地で認知症ケアに演劇の手法を活かしたワークショップを展開しています。

特別養護老人ホームで働いていた時、菅原さんは「老いとボケと死(劇団名)」から学ぶたくさんのことがあることに気づき、そのことを伝えるツールは「演劇」なんだと実感したといいます。認知症の症状ゆえ論理や理屈が通用しなくなったお年寄りも、“感情”はしっかりもっているから。その感情に寄りそう関わり方ができるのはまさしく「演劇」なのだと。介護現場では演劇の濃度が高い、だから介護職員も役者になって“演じる”ことをすれば、お互いの関係は良好になるのではと。

「認知症のお年寄りと、今、この瞬間を共に楽しむ」――お年寄りのボケを正すのではなく、ボケを受け入れる。受け入れることは“希望”につながると菅原さん。


後日、介護職の参加者の方にヒアリングを実施しました。
(参加者の方の声)

・ 講座を受けてやってみたことがあります。食事時間に食堂で認知症のお年寄りが繰り返し話してくる「お参りに行った話」というのがあり、今まではただ相づちを打って聞いていのですが(反応を示すと、相手がヒートアップして、周りの人に迷惑をかけてしまうかもしれないという思いがあったので)、その話に「乗ってみる」ことをしたら、何回も繰り返し話すことなく、しばらくすると食堂から立ち去ってしまいました。こっちが興味を持って聞いているというのが分ったのでしょうか。

・介護現場で「話を合わせる」ということはあっても「話にのる」という感覚はありませんでした。演劇的な考えだなと思いました。新人研修で「Yes,andゲーム」を取り入れるつもりです。今の若い人は、苦手だと思うので。「BOOKS」では、「否定・無視」という状況を客観的に見ることができると思います。自分が介護の現場で無視することを無意識でやってないか、気づく機会になりました。

福井県介護福祉士会研修会チラシ・福井県介護福祉士会では、新人介護職員を対象にした研修のなかで「Yes,andゲーム」を行いました。受講者から、「認知症のお年寄りの話にのることは、ともすれば嘘を言うことになるのではないか」という質問が出ましたが、「認知症のお年寄りが自分で発言したことを忘れることを悪用して絶対にそうはならない言葉をかけること(例えばご飯を食べたら家族が迎えにくるなど)は嘘になるが、認知症のお年寄りの言ったことに適当に相槌をうつのではなく、お年寄りの言葉に興味を持って発した応えは決して嘘ではない」ということを共有しました。


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