レポート「アクセシビリティ研修、その後」

レポート:荒川裕子(NPO法人福井芸術・文化フォーラム)


アクセシビリティ研修、その後

2019年6月30日に実施した「アクセシビリティ研修」には、福井大学国際地域学部から4人の学生が授業の一環で参加していた。授業というのは、課題探求プロジェクト(Project-Based Learning、以下PBL)という、福井県内の企業や団体に出向いて様々な課題を知り、調査・課題解決の提案を行う実践的なカリキュラムのことで、当フォーラムは連携先として、小寺美帆さん、後藤ななさん、橋本涼太さん、廣瀬まいさん、の4名を受け入れた。

彼らは、視覚に障害のある人が文化施設を訪れる際に何が障壁となり、障壁をなくすための最初の一歩は何なのか、どのような工夫をすることで文化施設をより楽しむことができるか、について調査研究を行った。自らが企画したイベントでのヒアリングから、課題解決の提案をまとめた。

学内発表用資料を表示する(pdf 5MB)
<福井大学国際地域学部 課題探求プロジェクト最終報告会資料より>

また、11月29日・30日と開催された、日本アートマネジメント学会第21回全国大会<金沢>にて、学生4人と「文化施設のアクセシビリティ」について、実践報告を行った。

 


PBLを終えて

小寺美帆
アクセシビリティ研修、その後今回、普段の生活では関わることができなかった人々と文化施設という生活の舞台でつながることが出来た。自分たちで「どうしたら目の見えない・見えにくい人に楽しんでもらえるのか」ということを一番に考え企画・実践を行うことで、人々の新たなコミュニケーションを生むことが出来ただけでなく、自分の成長に大きくつながった。

今回このような機会を与えてくださった荒川さんなど福井芸術・文化フォーラムの皆様、セーレンプラネットの皆様、岡島先生、なによりイベントに参加してくださった皆様に心から感謝している。今回の私たちの取り組みが、アクセシビリティの課題についていろいろな人が意識するきっかけになることを願っている。

後藤なな
アクセシビリティ研修、その後1年間の活動において「文化施設におけるアクセシビリティの大切さ」というテーマのもと、アクセシビリティや見えない・見えにくい人への理解、イベントの企画・実施の大変さ、ヒアリングを通して分かった理想と現実のギャップなど、普段の生活では知り得ないことをこのPBLを通してたくさん学べた。

ガイドツアーを通して気付いた課題の中で、コミュニケーションの重要性があるが、アクセシビリティ研修でもそれを実感することができた。その研修で知り合った岡島先生、セーレンプラネットの山口さんのご協力のもと、荒川さんの取り計らいのおかげでその後のイベントの企画・実施につなげることができた。こういった出会いとコミュニケーションがきっかけで新たなコミュニティが生まれ、アクセシビリティの課題について理解を深め、それをガイドツアーによって実践することができ、とても良い経験になった。

橋本涼太
アクセシビリティ研修、その後「Nothing about us without us」という一節が印象に強く残っている。意味は「私たちに関係することを決める時は、必ず私たちの意見を聞いて決めること」である。今回のPBLを通して、コミュニケーションがアクセシビリティを考える上でとても重要だということを身をもって知った。見えない・見えにくい方々とコミュニケーションを取る中で、相手が喜ぶことは何か、逆に喜ばないことは何か、何を必要・不必要としているか、ということに段々と気付くようになり、その結果としてたくさんの来場者の方々にガイドツアーを満足してもらうことができた。

コミュニケーション自体特段難しいことではなく、普段自分たちが友達や家族に対して取るそれとなんら変わりはないのだ。しかし、それに至るまでの環境が十分に整っていないがために対話が生まれず、アクセシビリティの課題も解決し難いのではないかと考えた。私は、この環境の機能性について興味を持ったので、少しでも良くなるよう今後も研究を続けていきたいと思っている。今回、出会ったすべての方々に心からの感謝を。

廣瀬まい
アクセシビリティ研修、その後今回、弱視の方、全盲の方、付き添いの方の展示室のツアーガイドと、ヒアリングをするという大変貴重な機会をいただけたことに感謝している。このイベントを通して、目の不自由な方が感じている、博物館の展示を鑑賞する際に不都合な点、便利だと思う工夫や配慮は、人それぞれ違う感じ方や意見があるものだと実感した。

コミュニケーションをとりながらのガイドや説明、実物をイメージできる立体模型などは、多くの、目に障害のある方に共通して、強く求められていることだと分った。それと同時に、日本国内でそれを実現させる難しさも知った。今後、この活動の機会を活かして、「誰もが楽しめる芸術文化施設」を実現させるために、日本各地や世界の事例なども参考にしながら、この課題を意識していきたい。

荒川裕子
文化政策を基礎から学び、文化施設へのヒアリング、アクセシビリティ研修参加、イベント実施、課題解決提案と、約1年間活動を行った彼ら。中でも、視覚に障害のある方を対象にしたイベント実施は多くの気付きをもたらし、彼らのその後の活動に影響を与えた。障害当事者からの生の声には、課題解決のヒントが山のようにあったからだ。

課題が明らかになっても、すぐに何かを変えることはできない。けれど学生の視点からの提案、情報発信は出来る。PBLを通して、現実の社会で起きていること、社会課題が何かということにリアリティが加わったことはとても大きい。また、私自身も、彼らからの質問に答えながら、自分自身の考えを深め共に学び合える貴重な時間をいただいた。


アクセシビリティ研修の今後の展開

2020年度は福井市社会福祉協議会さんが研修を引き継いでくれることとなった。また、研修の実施場所として、セーレンプラネットさんが施設を提供、さらに、研修プログラムについても、両者でいっしょに考え、当フォーラムも研修サポートをしていく。今後は、福井県内の他市町にも展開し、継続的な取り組みにしていくことを想定している。

アクセシビリティ研修、その後アートマネジメント学会の質疑応答で「美術館や博物館等、現場レベルでのアクセシビリティ向上のための意識付けについて継続的な取り組みが必要だが仕組みとして行うにはどうしたらいいか」という質問があった。確かに1回やって終わりでは意味がない。しかしながら、継続していくには様々な担い手が必要。

当フォーラム以外の協力者や担い手がいないと、継続することは難しいという点から、企画立案段階から福井市社会福祉協議会さんにお世話になり、実践部分では福井県視覚障害者支援ネットワーク(羽二重ねっと)さんにお世話になった。研修会実現に向けて分野を越えて協働することができた。それはネットワークという形での目に見えない確かな財産となった。

昨年のアクセシビリティ研修がきっかけとなって、文化関係者と福祉関係者が協働できる取り組み、一つのモデルが出来たことはとても喜ばしいことだと率直に感じている。個人と個人の結びつきから組織と組織の結びつきへ。その根っこにあるのは互いに問題意識を共有したということ。学生自身も肌で感じた現実と理想のギャップ、課題への強い意識。

何かを変えることは、とてもとても長い道のりだが、突き動かすのは一人一人の想い。より多くの文化施設がより多くの人を受け入れる体制づくりのお手伝いを今後もしていきたい。


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